ほー原人のブログ

原人からヒトへと進化するための考察。法律関係がメインとなると思います。

安倍内閣を支える日本のアノミー

 安倍首相は憲政史上最も無知無教養な宰相である。これは間違いない。政治を単なる権力闘争と捉えている。彼の関心は、より良い制度、安定した社会を構築することには向けられていない。異論反論を持つ人間をねじ伏せることが政治だと考えている。
 だからどれほど野党や専門家らから問題点を指摘されても、批判意見を受け入れて修正し、より洗練された制度にしようとしない。国論を二分した特定秘密保護法、安保法、そして今回の共謀罪
 批判を受け入れることは、彼の中では反対勢力に負けたことを意味するからである。

 現在、共謀罪法案は衆議院法務委員会を通過したのみだが、今後、衆議院本会議、参議院委員会と本会議、いずれにおいても修正等に応じる気配はない。また安倍内閣自民党が「権力闘争」において譲歩する必要性もない。
 おそらく必要な修正(*1)はなされないまま法律として成立するだろう。

 なぜ最も無知無教養な人間が、最も強大な権力を握ってしまったのだろうか。
 先週来某御用ジャーナリストが、安倍内閣の庇護によって自身が起こしたレイプ事件をもみ消してもらっていたことが話題となっている。オフレコ破りをしたために時事通信を干されたとされる人物。ペルー大使館人質事件の取材時に会社の金を横領したために共同通信をクビにされたとされる人物に至っては、携帯イタコ芸で長らく自民党に都合の良い怪情報を垂れ流していたが、昨年参議院議員に大躍進している。
 こうした豊富な人材にみられるように、脛に傷も持つ者をうまく懐柔して手駒にしている。彼らは安倍首相を支える以外、人生で二度と日の目を見ることはない。本人たちがそれをよく知っている。安倍内閣自民党の不祥事を批判することは天に唾する行為だ。即自身の古傷も開くことになる。逆に安倍首相に忠実であれば、自民党におもねてさえいれば、犯罪すらもみ消してもらえる。飴と鞭の見事な使い分け。
 だから死に物狂いで安倍首相を支える。

 このことは官僚機構においても同じ構造が透けて見える。
 戦前の軍・政府の暴走により国家滅亡寸前まで追い詰められた反省から、戦後日本において国家主義色の強い政策はタブー視された。
 したがって、国家主義色が強い右翼的あるいは復古趣味の官僚は多く肩身の狭い思いをした。自身の私見は表に出せない。出しても即潰される。しかし、国家主義色の強い話が大好きな安倍首相の下では、従来非主流派だった者が、大手を振ってかねて持論としてきた政策を実現できる。このことは特に、警察、防衛・自衛隊、そして外務省において顕著である。
 彼らもまた安倍首相を支えなければ、自身が再び非主流に追いやられる可能性を知っている。
 だから死に物狂いで安倍首相を支える。

 一方国民はどうであろうか。
 東日本大震災の甚大な被害から感じた無常。あれだけの被害をまき散らしたにも関わらず誰一人責任を取らなかった原発事故。4年間議論すら不要と言ってた消費税引き上げを、最後はこれだけはやらせろと断行した民主党政権の裏切り。
 国民がアパシー(政治的不感症)に陥る条件は整っていた。その全国民に瀰漫(びまん)したアパシーが、安倍という政治家を消極的に承認した。
 結果、戦後最大最強の権力を与えてしまったのである。

 衆参両院とも2/3を超える議席数。昨年の参院選直後にも予想はしていたが、これほどとは思わなかった。森友・加計不正問題を抱えながら、共謀罪を軽く押し通してなお揺るがない。

 規範意識の崩壊と国民の政治的アパシー共謀罪の濫用の危険性よりもはるかに根深い病巣が、そこにある。
 今日本は緩やかに、しかし確実に自殺しようとしている。

以上

 

*1 必要な修正の私見

今話題のテロ等準備罪(共謀罪)法案についての私見 - ほー原人のブログ

テロ等準備罪案についての一考察

【テロ等準備罪を考える】
櫻井よしこ氏「古代の化石のようなことをいまだに言い続けることと、民進党の支持率の低迷は無関係ではない」
2017.5.4 21:28


 櫻井さん自身の変節ぶり、主張の間違い、もはやお約束となった強引な民進党叩きにつなげる詭弁など、ツッコミどころ満載の駄文であるが、重要なポイントについて二点指摘しておく。

テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法の改正案は「国際組織犯罪防止条約」(TOC条約・パレルモ条約)批准のために必要不可欠な国内担保法である。
 これは間違いである。

「条約、対テロ目的でない」 国連指針を執筆・米教授 「共謀罪」政府説明と矛盾
2017年5月5日05時00分


国際組織犯罪防止条約TOC条約)締結のために政府が必要としている「共謀罪」法案(組織的犯罪処罰法改正案)をめぐり、国連の「立法ガイド」の執筆者が朝日新聞社の取材に応じ、「テロ対策は条約の目的ではない」と明言した。条約の目的について「テロ対策」を強調する日本政府とは異なる見解が示された。
 この朝日記事は従前から法学者・法律実務家らから指摘されていたことを「立法ガイド」起案者のインタビューで裏付けを取ったものである。大変重要なポイントなので立法ガイドの該当部分を見ておく。

国際組織犯罪防止条約の立法ガイド
LEGISLATIVE GUIDES FOR THE IMPLEMENTATION OF THE UNITED NATIONS CONVENTION AGAINST TRANSNATIONAL ORGANIZED CRIME AND THE PROTOCOL THERETO

26. The definition of “organized criminal group” does not include groups
that do not seek to obtain any “financial or other material benefit”. This
would not, in principle, include groups such as some terrorist or insurgent
groups, provided that their goals were purely non-material.
「組織的犯罪集団」の定義は、「財産的あるいはその他の物質的利益」を得ることを目的としない集団を含まない。このことは、原則として、テロリストや反政府集団のような、その目的が純粋に非物質的利益の提供にある集団を含まないということである。(筆者拙訳)

 このように用語法を定義した13ページに明確に記載されている。
 今回、安倍政権は東京五輪のテロ対策を口実に、かつて否決された悲願の共謀罪の成立を目論んだ。しかしテロ対策はそもそも国際組織犯罪防止条約の目的には含まれていない。策士策に溺れるとはこのことだろう。テロ等準備罪は国際組織犯罪防止条約とは何ら関係がなく、したがって批准のために必要不可欠な国内担保法ではない。政府が提出した法案には理由がない。

 次に与党自民議員が作った設例なのだが、これが極めて稚拙なことはともかく、なぜ政府案が不要かを端的に表している。産経が最近好む表現を用いるなら「ブーメラン」ということになるのだろうか。むしろ与党議員による自爆テロに近い。

佐藤正久参院議員(自民)は、テロリストが水源に毒を入れて多くの人を殺害しようと企てたとしても、現行法では実際にテロリストが水源に毒を投げ入れなければ逮捕できないと指摘する。
 ここでの佐藤さんの指摘は、特別法違反の点は除くことが前提と思われる。よって議論が煩雑になるのを避けるため、特別法違反の点は除いて検討する。もちろん「住居侵入罪が必ず成立するやんけ!」というような揚げ足取りをすることが目的でもない。より本質的なツッコミがあるのだ。

 刑法は人の飲用に供する水に異物・毒物を混入する行為を罰する(刑法第15章飲料水に関する罪。142条ないし147条)。しかしこの飲料水に関する罪には未遂処罰規定が置かれていない。したがって、現実に異物・毒物を浄水・水道水に混入しないと犯罪は成立しない。
 犯人が毒物の入ったビンを手に持ってフタを開ける。今まさに毒物を流し込もうとビンを傾ける。未遂処罰規定があれば、ここでは実行の着手が認められるので、未遂罪が成立して逮捕できる。しかし現実には未遂処罰規定がない。したがって、そのまま毒物をたらすのを見届けて、浄水面上に毒物が触れた瞬間に初めて逮捕できることになる。
 これは不都合ではないか。おかしいではないか。というのがここでの問題意識であろう。

 まず初歩的な間違いを訂正しておく。
 刑法がいう水道水はもちろん浄水というのは、そのまま人が飲用に用いる程度に清浄な水であることを要する。したがって例えばダム、あるいは用水堰のような「水源」に毒物を流したとしても、飲料水に関する罪は成立しない。よって、ここでは「水源」を「井戸」あるいは「浄水場」と読み替えることにする。
 我々が普段口にする水。生命の維持になくてはならない水。毒物を混入しようとしてるテロリストを発見したにも関わらず、水に毒物を混入し終えるまで待たないと逮捕できない。確かに不都合だ。未然に防止するためにもテロ等準備罪が必要だ。そう考えた人は安倍政権に、自民党とその御用言論人に騙されている。
 刑法の第15章に未遂処罰規定を作るだけで十分なのである。テロ等準備罪などという277個もの広範な犯罪に準備罪を設ける必要はない。

以上

今話題のテロ等準備罪(共謀罪)法案についての私見

この法案に対するぼくの基本スタンスを簡単に説明しておく。

1 政府はテロ対策の必要性を口実に国際組織犯罪防止条約TOC条約)締結のために必要と主張する広範な共謀罪を創設しようとしている。仮に政府の主張とおりTOC条約締結のために共謀罪が必要だとしても、テロ対策は無関係なので、この2つは分けて法案を作り直すべきである。無関係な2つの目的をつなぐために規定があいまいで対象犯罪が過度に広範になってしまっているからである。
 なお、日本はテロ防止関連諸条約13個は批准済みである。

2 法の適用対象となる「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」(改正法案6条の2)について、暴力団対策法における指定暴力団のように、事前に行政処分によって指定する制度にするべきである。これによって指定に不服がある場合、事前に行政不服審査行政訴訟によって争うことが可能となる。組織的犯罪とは無関係な団体が不意打ちで捜査、処罰される危険を回避できる。その結果、政府の恣意的な運用に対するある程度の歯止めとなる。

3 広範な準備罪の創設対象とされた犯罪(刑法の用語で構成要件という)は277個とされる(改正法別表4)。これは未遂処罰が例外、さらにその例外中の例外として予備行為が処罰される現行の刑法体系の原則と例外を入れ替えるものである。不必要に広範な処罰は捜査当局による恣意的な運用にしかつながらず不適切である。包括的に対象に含めるのではなく、どうしても必要な犯罪に対してのみ個別に立法するやり方を選択すべきである(この稿では触れないが、私見では、TOC条約の締結に共謀罪または参加罪の少なくとも一方が必要という政府当局の主張は、外務省の誤訳に基づく誤った議論であるという喜田村弁護士ら日弁連の説を採用する)。

4 以上の絞り込みを入れない場合、今回のテロ等準備罪が成立することによるリスクは、法案が成立することによって生じうるリスクを上回る。したがって成立させない方がよい法案ということになる。

以上

[参考URL]
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案
理由
http://www.moj.go.jp/content/001221007.pdf
新旧対照条文
http://www.moj.go.jp/content/001221008.pdf

テロ防止関連諸条約について
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_04.html

日弁連共謀罪に反対します
https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/complicity.html

共謀罪は不要(国連の立法ガイドより)
http://www.ac.auone-net.jp/~tigre/gwife2670/2666mokuji/kyoubouzai_UN51.htm

的外れな自衛隊明記論

元記事
憲法改正、20年施行目指す=9条に自衛隊明記を-首相がメッセージ

 首相は自衛隊について多くの憲法学者や政党が違憲とする議論を続けているとして、「『自衛隊違憲かもしれないけれども、何かあれば命を守ってくれ』というのはあまりに無責任だ」と強調。「少なくとも私たちの世代のうちに『自衛隊違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と唱えた。
 安倍さんも含めて多くの方がこの点について勘違いをしている。
 仮に憲法自衛隊を明記したとしても、憲法が定める組織・作用の上限を超えたら、やはり違憲という評価を受けることになるのである。
以下、内閣を例に考察してみる。

 内閣は憲法に定めがある(65条以下)。
通常、内閣が憲法違反という議論は存在しない。
しかし民間閣僚が半数以上になれば内閣も憲法違反になる(68条1項)。
 作用面でもう一つ違憲の例をみておく。
憲法上、国会が唯一の立法機関と明記されている(41条)。
したがって内閣が立法を行うことは憲法違反になる。

 ところで現実には法律の委任に基づいて、政令以下、行政による法規範の定立が行われている。この作用を行政立法という。憲法の条文をストリクトに読めば、かかる行政立法は憲法41条違反というべきことになる。
 しかし、上位の法律に大枠の定めが規定されていること、法律から授権されていること、そのような授権の範囲で行政が実質的な法規範を定めることは憲法違反とは考えられていない。
 このような法的ロジックによって明文規定とは異なる帰結を肯認することはよくあるということを知っておくべきだろう。

 憲法9条の条文から自衛隊憲法違反であると主張する方々は、行政立法も憲法違反であると主張するのであろうか。憲法9条は戦力の不保持を規定しているのみで警察力については何も規定していない。したがって、その範囲で自衛隊保有することが直ちに憲法違反になるわけではない。
 現行憲法の下でも自衛隊を合憲とする法的ロジックは存在する。そしてその範囲内であれば合憲、その範囲を超えたら違憲という評価を受けることになる。内閣の例と同じことだ。
 ひとり自衛隊のみが憲法上異常な扱いを受けているわけではない

 自衛隊がどのような組織を持っても、どのような活動を行っても違憲の評価を受ける可能性がないということは、公権力の外、国家権力の外に置いて、憲法の制限が届かない超法規的(超憲法的)組織にすることを意味する。一方、憲法の下に置かれるなら、組織・作用が憲法の許容する範囲を逸脱したら憲法違反となる。

 「自衛隊違憲かもしれない」という余地をなくすために憲法に明記する

 この安倍首相の主張は背理だと分かるだろう。
 現代の立憲主義国家では、あらゆる国家機関が常に憲法に適合しているか国民から監視されるのは当然のことなのだ。憲法を守る意思と能力を持たない政府、あるいは国会ならば、何をどう定めようと自衛隊憲法違反であるという批判がついて回ることになる。
 憲法を軽視(敵対視)して、場当たり的にやりたいと思ったことは国民を騙してやり遂げる。自民党霞が関の腐った性根が改まらない限り、自衛隊違憲の批判を受け続けることになるだろう。
 憲法違反なのは自衛隊ではなく、一貫して自民党である。

以上

憲法改正私案

憲法記念日にブログを開設するにあたって、まずはこれまで個人的に考えていたところをまとめて掲載しておく。Ver0.3.0となっているのは、既に何度か考察の結果改訂してるという程度の意味に過ぎない。今後も様々な議論を参考に考察を加えてバージョンアップを図りたい。

憲法改正格付け Ver0.3.0
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■ AAA(やった方がいいと思われるもの)
憲法違反の行為を行った国会議員、閣僚に対する罰則の創設

■ AA(必要性が高いと思われるもの)
・「国会議員の総選挙」(7条4号)等文言の統一→総選挙は衆議院のみなので文言を合わせる

■ A+(判例法理で確立しており、反対者も少ないと思われるもの)
・13条派生の新しい人権規定の例示列挙
・21条派生の報道の自由、取材する権利の例示列挙
・生命、身体に対する国家補償(29条3項類推の明文化)
罪刑法定主義における実体法の適正(31条)
・行政手続への31条以下の準用
・租税法律主義における手続の法定(84条)
・私学助成制度(89条)

■ A-(判例法理で確立しているが、反対者がいて紛糾が予想されるもの)
・権利性質説に基づく人権規定の主語の統一
政教分離規定(20条3項)の目的効果基準

■ B(広く支持されている現行制度の合憲性を明らかにするもの)
天皇の公的行為
・国会の解散権の所在(7条3号、69条関係)
・9条3項に「前2項の定めは日本が必要最小限の自衛の措置を行うことを妨げない」と追加

■ C(新しい問題提起)
・裁判官人事の内閣からの独立(6条2項、79条1項、80条1項)
・国会の自律的召集(7条2号、52条、53条関係)
同性婚(24条関係)
死刑廃止(36条、13条、31条関係)
・国政レベルでの直接民主制、国民発案(イニシアティブ)、解職請求(リコール)、監査請求と納税者訴訟の創設
一院制(42条関係)
国会議員の任期の例外延長(45条、46条)(選挙の延期ではなく任期の延長なら改憲が必要)
・国会の委員会の原則公開の追加(57条関係)
・政府解釈変更、判例変更の準則の明記
憲法裁判所の創設(76条1項、81条関係)
・財政規律と単年度主義の見直し(83条以下)
地方公共団体の自主立法、条例による法律の上書き(93条、94条)
・抵抗権の明記

■ D (精神論、理念的事項で、改正しても問題は少ないと思われるもの)
・内容はそのままに現代語・口語化する
天皇国家元首であることの明示
・義務の削除(26条2項、27条1項、30条)

■ E(精神論、理念的事項で、改正すると問題が生じると思われるもの)
・前文「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」の削除
天皇制廃止・共和制への移行
・一般的な人権制約規定の創設
・一般的な国民の義務規定の創設
・改正要件の引き下げ(96条1項)

以上