ほー原人のブログ

原人からヒトへと進化するための考察。法律関係がメインとなると思います。

第193回国会反省会場 #2

 安全保障関連では、大島敦議員(民進党)らが領域等の警備に関する法律案(以下、領域警備法案)を提出していた。内容は4月に民進党を離党した長島昭久議員らが、2014年の臨時国会(第187回国会)で提出した同名の法案をベースに若干の加除修正を加えたものだった。制度の格子は、領域の警備に関して警察機関(海上保安庁含む)と自衛隊の役割分担を整理し、連携を強化する。原則として、領海と離島の警備は警察機関、領空は自衛隊が対処するものとする。警察機関の配備の状況や本土との距離などにかんがみて、対応に支障が生じるおそれのある区域を領域警備区域に指定し、自衛隊が領域警備行動を行うものとし、またいわゆるグレーゾーン事態のおける治安出動や海上警備行動を迅速に可能にするものとなっている。

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     民進党民主党)のパンフレットより引用

 15年の安保法制に反対の立場を採った民進党はともすると安保関連について何ら関心がないかのように印象操作されたりもする。しかし、時系列を確認すると、14年7月に安倍内閣憲法9条に関する従来の政府解釈(いわゆる昭和47年見解)を変更、その秋の臨時国会で当時の民主党領域警備法案を提出、政府与党はこれを事実上無視する形で審査未了とし、翌15年の通常国会で国論を二分した安保法制(政府略称、平和安全法制。以下15年安保法と呼ぶ)を提出して成立を強行した。
 政府の15年安保法よりも先に民主党領域警備法を提出していたことが分かる。なお、15年安保法が歴代内閣法制局長官最高裁判所判事、憲法学者から軒並み憲法違反と評価されたのは周知のことである(*1)。
 当時の議論を蒸し返すのは不毛な面はあるが、基本的な議論を確認しておく。
 特に憲法違反の批判を浴びた集団的自衛権は日本の防衛には無関係である。少なくとも憲法を無視してまで、直ちに法整備しなければならないほどの緊急性は見当たらなかった。またPKO活動の変質と相まって、現行憲法の制約を残したまま参画すると現地に派遣された自衛官が過酷な矛盾にさらされる可能性が高かった国連への協力活動も、より慎重に検討する必要があった。
 事実昨年の11月から15年安保法を根拠に駆け付け警護活動の任務を託されて順次派遣された南スーダン派遣施設隊第11次隊は、今年2月に発覚した南スーダンPKO先遣隊の日報が防衛省によって隠蔽されていた問題、これに関する稲田防衛大臣の二転三転する虚偽答弁を経て、今年3月に撤収することになった。
 日本の安全保障を考えると、喫緊の課題は台頭した中国の領域拡大、特に海洋侵出の野心に対する未然の防止策である。経済を含む相互の互恵関係の強化、環境問題、海洋資源管理等に対する共通の問題意識醸成など、多重の話し合いの席を設けることで容易に軍事的に高圧的な行動に出られない予防線の構築することが最も重要な策となる。適宜毅然とした外交ルートによる申し入れも重要である。
 これに加えて、最悪の場合の力による対応の強化を考えると、日本は海洋国家であり他の国との境界はすべて海で接していること、6852個もの島から形成されている条件からいって、領海と島の実効支配、武装勢力の早期発見・武装解除の体制を整え強化することが優先課題となるのだ。

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  日本の領海・排他的経済水域EEZ海上保安庁HPより引用

 懸案事項は軍事のみではない。14年秋に中国の漁船が小笠原海域で違法操業して貴重なサンゴが根こそぎ密漁された。日本政府は漁業主権法と外国人漁業規制法の改正で厳罰化した(*2)。すみやかな対応は一応評価できるが、海保のみによる対応でリソース不足を露呈したことを考えると、野党民進党提案という理由で、この領域警備法案をかたくなに無視し続ける姿は幼稚に見える。

以上

*1 私見も現行憲法集団的自衛権憲法9条1項に違反すると考える。合憲性の論証は政府あるいは法案に賛成する者が行うべきところ、当時違憲の論証を批判者にさせる倒錯した責任転嫁が横行したのは大変残念な議論であった。
 余談だが、安倍内閣はこの手の証明責任の批判者へのなすり付けをよく行う。今回の通常国会で噴出した森友学園土地不正値引き疑惑、加計学園獣医学部不正認可疑惑においても、疑惑追及をする相手に完全な証明責任を負わせるような強弁を繰り返した。そもそも政府に説明責任があること、文書・資料等が政府に偏在していること、政府の方が人的リソースが豊富であること、活動の資金力も政府が勝ること、それらが税金でまかなわれていることなど勘案すれば、きわめて卑劣な責任転嫁と批判されるべきだろう。

*2 2016年版海上保安レポートによると、「海上保安庁水産庁及び東京都が連携して厳正な取締りを実施してきたこと、外交ルートにおいても中国側に対して再発防止のための実効性のある措置を求めてきたこと、外国漁船による違法操業の抑止を図るため、違法操業等に対する罰金を引き上げるための法律改正が行われたことなど」により、平成27年1月下旬以降中国サンゴ漁船は確認されていないとされている。