ほー原人のブログ

原人からヒトへと進化するための考察。法律関係がメインとなると思います。

第193回国会反省会場 #1

 今年の通常国会が閉会した。国会に提出される議案は多数に上るため、国民生活への影響が直接的なものや与野党対決型法案以外だとマスコミ報道でも見落としがちである。小さな案件や議員立法で事実上可決が見込めないようなものだと、報道すらされないものも多い。また自分が所属している業種、会社、学生なら専攻と関係しない分野に関する法案などは興味すら持たないで終わってしまうのが現実である。
 こうした多数の議案のすべてを取り上げて考察するのは、僕の能力には手に余る。そもそも時間もない。そうした制約の中で、いくつか目についた法案について考察してみたい。

 記述中の法案の審議状況は6月18日現在、衆議院参議院のウェブサイトで確認したものである。サイトの更新の関係で、情報が遅れている場合があり得ることにご注意いただきたい。

 政治資金関係の改革について、共産党民進党がそれぞれ議員立法を提出している。
 共産は政党助成法の廃止と政治資金規正法の改正をセットで提出した。共産案の骨格は、政党助成金と企業団体献金を共に廃止することで、政治活動を支える資金はすべて個人献金の浄財によって賄うものとすることである。政治資金パーティーは禁止しておらず、政治活動に関する寄附として処理することにしている。
 一方、民進党政治資金規正法租税特別措置法の改正をセットで提出した。民進案の骨格は、企業団体献金政治資金パーティーを禁止して、個人献金のインセンティブを作るために税額控除を拡充することである。また現行法において、世襲政治家が政治資金を非課税で移転することが可能な抜け穴になっている(*1)と批判されている政治団体間における寄附の上限額を年間5千万円から年間3千万円に引下げを提案した。

 政党助成法は1994年に成立した。80年代の中曽根税制で大幅な法人減税を実施し、財界の意向を受けて派遣法が制定され、一方家計には消費税導入で負担感が増したため、企業団体献金が財界の意向を政治が実現する対価の性格を強めてしまった。さらにリクルート事件東京佐川急便事件、ゼネコン汚職事件といった大型の汚職事件が立て続けに発覚したため国民の政治不信が非常に大きなものとなった。
 政治不信を受けた93年の解散総選挙自民党単独過半数を割り細川連立内閣が誕生する。細川内閣は、企業・労働組合などの団体からの献金の禁止を実現しようとしたが、収入の大幅減少が予想される自民党が大反発して税金から助成する政党助成制度を主張した。ところが細川内閣は衆議院比較第一党の自民をあえて外した非自民八党連立というイレギュラーな枠組みだった上、参議院のねじれを利用した自民党の徹底抗戦などの前にあえなく沈没してしまう。その後、羽田内閣を挟んで村山内閣で自民党が連立に復活する流れの中で、企業団体献金の禁止がうやむやになってしまった。
 結果、自民党は従来の企業団体献金に加え、政党助成金まで手にすることに成功し、自ら生み出した政治不信を逆手にとって焼け太りしてしまった。この状況が四半世紀経った現在も続いているのであり、どちらか一方は廃止するというのが筋といえる。確かに国家統治になくてはならないコストを十分に確保しつつ、政策決定が一部の大口献金者に有利なように捻じ曲げられない制度を作るというのは難問ではある。しかし、共謀罪法案の半分のエネルギーでも投入してまとめられない話とは思えない。このような話が毎回審議未了で持ち越されることは、政策の優先順位を誤っているからと批判されるべきだろう。

なお、共産党は一貫して政党助成法は納税者の思想・良心の自由に反し違憲と主張している。このあたりの問題意識につき、以下のサイトが分かりやすくまとまっている。
http://www.jicl.jp/now/date/map/11.html
http://www.jicl.jp/now/saiban/backnumber/seito_1.html

 閣法として提出された民法改正は、5月56日に成立した。かなり大幅な改正なため、多くの人が勉強に追われているのではないだろうか。
 その裏でいわゆる選択的夫婦別姓を織り込んだ別の民法改正案も議員立法で提出されていた。提出者は井出庸生民進党)ら。一部で夫婦別姓は日本の歴史に反する、あるいは日本の家族観を破壊するという荒唐無稽な批判をする勢力がある。これは保守に擬態した似非保守の歴史ねつ造なので騙されないように注意したい。もっとも高校で古文や日本史をちょっとでも真面目に勉強してたら引っかかる方がどうかしてるのだが。

以上

*1 制度上の話であり、すべての世襲政治家がそのような租税回避をしていると決めつけるわけではない。これは各政治家の資金の流れを監査しなければ確定できない。問題は、制度が複雑なこと(例えば、政治資金管理団体政治資金団体の違いを説明できる有権者は全体の何パーセントいるだろうか?)、情報公開の仕組みが複雑なことから(選挙区によって総務省都道府県選管等、政治資金収支報告書が分散している)、有権者の目が絶望的に届きにくいのにもかかわらず、法制には穴があることである。