ほー原人のブログ

原人からヒトへと進化するための考察。法律関係がメインとなると思います。

的外れな自衛隊明記論

元記事
憲法改正、20年施行目指す=9条に自衛隊明記を-首相がメッセージ

 首相は自衛隊について多くの憲法学者や政党が違憲とする議論を続けているとして、「『自衛隊違憲かもしれないけれども、何かあれば命を守ってくれ』というのはあまりに無責任だ」と強調。「少なくとも私たちの世代のうちに『自衛隊違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と唱えた。
 安倍さんも含めて多くの方がこの点について勘違いをしている。
 仮に憲法自衛隊を明記したとしても、憲法が定める組織・作用の上限を超えたら、やはり違憲という評価を受けることになるのである。
以下、内閣を例に考察してみる。

 内閣は憲法に定めがある(65条以下)。
通常、内閣が憲法違反という議論は存在しない。
しかし民間閣僚が半数以上になれば内閣も憲法違反になる(68条1項)。
 作用面でもう一つ違憲の例をみておく。
憲法上、国会が唯一の立法機関と明記されている(41条)。
したがって内閣が立法を行うことは憲法違反になる。

 ところで現実には法律の委任に基づいて、政令以下、行政による法規範の定立が行われている。この作用を行政立法という。憲法の条文をストリクトに読めば、かかる行政立法は憲法41条違反というべきことになる。
 しかし、上位の法律に大枠の定めが規定されていること、法律から授権されていること、そのような授権の範囲で行政が実質的な法規範を定めることは憲法違反とは考えられていない。
 このような法的ロジックによって明文規定とは異なる帰結を肯認することはよくあるということを知っておくべきだろう。

 憲法9条の条文から自衛隊憲法違反であると主張する方々は、行政立法も憲法違反であると主張するのであろうか。憲法9条は戦力の不保持を規定しているのみで警察力については何も規定していない。したがって、その範囲で自衛隊保有することが直ちに憲法違反になるわけではない。
 現行憲法の下でも自衛隊を合憲とする法的ロジックは存在する。そしてその範囲内であれば合憲、その範囲を超えたら違憲という評価を受けることになる。内閣の例と同じことだ。
 ひとり自衛隊のみが憲法上異常な扱いを受けているわけではない

 自衛隊がどのような組織を持っても、どのような活動を行っても違憲の評価を受ける可能性がないということは、公権力の外、国家権力の外に置いて、憲法の制限が届かない超法規的(超憲法的)組織にすることを意味する。一方、憲法の下に置かれるなら、組織・作用が憲法の許容する範囲を逸脱したら憲法違反となる。

 「自衛隊違憲かもしれない」という余地をなくすために憲法に明記する

 この安倍首相の主張は背理だと分かるだろう。
 現代の立憲主義国家では、あらゆる国家機関が常に憲法に適合しているか国民から監視されるのは当然のことなのだ。憲法を守る意思と能力を持たない政府、あるいは国会ならば、何をどう定めようと自衛隊憲法違反であるという批判がついて回ることになる。
 憲法を軽視(敵対視)して、場当たり的にやりたいと思ったことは国民を騙してやり遂げる。自民党霞が関の腐った性根が改まらない限り、自衛隊違憲の批判を受け続けることになるだろう。
 憲法違反なのは自衛隊ではなく、一貫して自民党である。

以上